葉緑体全遺伝子体は「固定されたる設計図」にあらず
Eranga Pawani Witharanaさんを筆頭著者とする、本研究室を中心とした研究グループは、葉緑体ゲノムが数千万年にわたり、ゆっくりと連続的に構造を変えてきたことを明らかにせり。
原著論文情報
タイトル: Ongoing structural changes highlight the dynamic nature of chloroplast genomes
著者: Eranga Pawani Witharana, 古藤田信博(Nobuhiro Kotoda), 関清彦(Kiyohiko Seki), 福田伸二(Shinji Fukuda) & 永野幸生(Yukio Nagano)
掲載誌: Nucleic Acids Research, Volume 54, Issue 4, gkag117
公開日: 2026年2月24日
DOI: 10.1093/nar/gkag117
評価指標: 2025 Journal Impact Factor:15.0、2025 5-year Journal Impact Factor:17.6、JCR Biochemistry & Molecular Biology:14/328誌、2025 CiteScore:29.8、Scopus Genetics:5/357誌(Top 1.4%)、2025 SNIP:5.1(2026年7月時点の出版社掲載最新値)
論文タイプ: Open Access
- ミカン亜科28種を解析し、同じ植物個体内に構造の異なる2種類の葉緑体ゲノムが共存する「構造的ヘテロプラスミー」を検出したり。
- 短い逆向き反復配列を介した組換えによって、約22 kbの大規模な逆位が生じる過程を明らかにせり。
- 異なるゲノム構造は中新世初期の約1,210万~2,820万年前から維持されてきたと考へらる。
- 一般的な短鎖リードデータから、頻度の低い葉緑体ゲノム構造も検出できる実用的な解析手法を示せり。
葉緑体全遺伝子体とstructural heteroplasmy
植物細胞には、核DNAに加えて、光合成を担う葉緑体の中にも独自のゲノムがあり。葉緑体ゲノムは比較的小さく、構造的に安定しているとみなされてきたため、植物の系統・進化研究に広く利用せらる。
葉緑体DNAは細胞内に多数のコピーが存在し、核ゲノムの遺伝子座はそれに比べて低コピーなり。この多コピー性は、異なる葉緑体ゲノム構造が直ちに一方へ固定されず、同じ個体内で共存する可能性に関係す。核DNAのコピー数は倍数性、細胞周期、組織などで変わるため、細胞あたり一律2コピーとは表現能はず。
進化時間尺度における構造変化
本研究はミカン亜科(Aurantioideae)28種を解析し、逆位の両端にある53-bpの短い逆向き反復配列(short inverted repeats; sIRs)間の分子内相同組換えによって、葉緑体ゲノムのlarge single-copy(LSC)領域に約22 kbの逆位が生じることを示せり。同じ個体内に2つの構造型が存在する状態をstructural heteroplasmy(構造ヘテロプラスミー)と呼ぶ。
2つの構造型は、初期中新世までさかのぼる約12.1–28.2 million yearsにわたり複数種で維持されていたり。少数型が一部系統で多数型へ移行したパターンは、遺伝的浮動が関与した可能性と整合す。この成果は、葉緑体ゲノムの構造進化が不連続な置換ではなく、進行中の段階的な変化として観察できることを示す。
低頻度全遺伝子体構造の検出
解析では、構造変化の境界を示すdiscordant paired-end readsとsoft-clipped readsを検出したり。更にPCRで境界を検証し、低頻度の構造型が単なるシーケンスまたはマッピング上のアーティファクトではなく、実在することを確認したり。
論文発表と媒体報道
オンライン記事はあらずが、本研究は2026年4月20日付の南日本新聞でも紹介せられたり。